ヒノキは、山地さんちに自生じせいする常緑じょうりょくの針葉樹しんようじゅで、スギと同おなじくヒノキ科かの仲間なかまで、日本にほん固有種こゆうしゅです。自然しぜん林りんでは山やまの尾根おねなど乾燥かんそうした地ちや岩場いわばに多おおく見みられます。スギよりは成長せいちょうが遅おそく、急峻きゅうしゅんな崖がけにへばりつくように生はえるヒノキは、年輪ねんりんがわからないほど緻密ちみつで、とても堅かたくなります。

ヒノキは油あぶらを含ふくむ材質ざいしつのため、昔むかしは火ひを起おこす木きとして使つかわれてきました。このことから「火ひの木き」と呼よばれ、これがヒノキの名なの由来ゆらいという説せつと、他ほかにも「太陽たいようのように尊とうとい」という意味いみの「日ひの木き」を語源ごげんとする説せつがあります。

いずれにしても「万葉集まんようしゅう」にもヒノキは歌うたわれるなど、日本にほん古来こらいの暮くらしと密接みっせつな関かかわりがあります。たとえば家いえの柱はしらのすべてにヒノキを使つかわず、大壁柱おおかべばしらにはスギを、床柱とこばしらにエンジュを使つかうと、火除ひよけになり、家いえに火ひを呼よばないという言いい伝つたえなども残のこっています。

天然てんねんのヒノキは、福島県ふくしまけん以南いなんの本州ほんしゅう、四国しこく、九州きゅうしゅうの屋久島やくしままで分布ぶんぷします。

スギとともに各地かくちで植林しょくりんされ、スギは谷沿たにぞい、アカマツは尾根沿おねぞい、ヒノキはそれらの中間ちゅうかん、山やまの中腹ちゅうふくから尾根沿おねぞいに植林しょくりんされました。

東北地方とうほくちほうなどヒノキの育そだたないところでは、昔むかしから建築材けんちくざいとして、スギや柔やわらかいモミなどが使つかわれてきました。北海道ほっかいどうではエゾマツが、沖縄おきなわでは湿気しっけやシロアリの害がいに強つよいイヌマキが、家いえの材ざいとして利用りようされてきました。

ヒノキは常緑じょうりょくの木きで、春夏秋冬しゅんかしゅうとう、緑色みどりいろの葉はがびっしりと付つています。しかし、この緑色みどりいろの葉はが何年なんねんも枝えだに残のこるわけではなく、枝先えださきに次々つぎつぎと新あたらしい葉はが伸のびるのに合あわせて、古ふるい葉はは少すこしずつ茶色ちゃいろに枯かれ落おちます。

ヒノキのまっすぐな幹みき

ヒノキの幹みきはまっすぐで、枝えだはほぼ水平すいへいに伸のび、全体的ぜんたいてきには傘形かさがたになります。

常緑じょうりょくの高木こうぼくで、高たかさ約やく30m、幹みきの直径ちょっけいは60cm～1mです。スギよりは太ふとくなりません。

成長せいちょうが遅おそく、材ざいは年輪ねんりんが細こまかく、昔むかしから優良ゆうりょうな建築材けんちくざいとして利用りようされてきました。

ヒノキの樹皮じゅひ

樹皮じゅひは赤褐色あかかっしょくで、幼木ようぼくは縦たてにやや粗あらく裂さけます。成長せいちょうするにしたがい、長ながく帯状おびじょうになって剥はがれます。老木ろうぼくでは樹皮じゅひがさらに細こまかく剥はがれます。

ヒノキの樹皮じゅひは、「檜皮ひわだ」と呼よばれ、屋根やねを葺ふく材料ざいりょうとして、日本人にほんじんの暮くらしを支ささえてきました。

木きに登のぼってヒノキの樹皮じゅひを剥はぐ人ひとを「原皮師もとかわし」といい、内樹皮ないじゅひを傷きずつけないよう、外樹皮がいじゅひのみを上手じょうずに剥はぐと、約やく10年後ねんごには、同おなじ木きから再ふたたび樹皮じゅひを剥はぐことができます。作業さぎょうは、木きの成長せいちょうが止とまっている9月がつから3月がつまでの間あいだに行おこないます。

剥はいだ樹皮じゅひをさらに薄うすく剥はぎ、形かたちをきれいに整ととのえた後のち、屋根やねの下地板したじいたに竹釘たけくぎでとめていき、檜皮葺ひわだぶきの屋根やねが造つくられます。

葉はの裏うらにあるYワイ字じ気孔きこう帯たい

葉はは長ながさ1～3mmで、うろこ状じょうに並ならんで付つきます。葉はの先さきは尖とがりません。

葉ははサワラとよく似にていますが、葉はの裏うらで違ちがいを見みつけることができます。ヒノキの葉はを裏返うらがえすと、白しろい気孔きこうの集あつまりである「気孔帯きこうたい」が「Yワイの形かたち」に見みえます。同おなじ針葉樹しんようじゅヒノキ科かの仲間なかまサワラと似にていますが、サワラの気孔帯きこうたいは、「Xエックスの形かたち（蝶形ちょうがた）」に見みえ、葉先はさきも尖とがっており、ヒノキと区別くべつできます。

小ちいさな雌花めばなと雄花おばな

一ひとつの木きに雌花めばなと雄花おばなが付つき、別々べつべつに咲さきます（雌雄同株しゆうどうしゅ）。

4月がつ頃ごろ、雌花めばなと雄花おばなが枝先えださきに付つきます。雄花おばなは赤あかみを帯おびた楕円形だえんけいで、雌花めばなは球形きゅうけいです。どちらもとても小ちいさくて見みえにくいです。

ヒノキの球果きゅうか

ヒノキの球果きゅうかは、直径ちょっけい１cmほどの球形きゅうけいをしています。開花かいかした年としの10～11月がつに赤褐色あかかっしょくに熟じゅくします。スギの球果きゅうか（スギぼっくり）にも似にていますが、もっと小ちいさくてスギほどの刺々とげとげしさはありません。

熟じゅくした球果きゅうかは、サッカーボールの形かたちに裂開れっかいし、果鱗かりんの割われ目めから種たねをポロポロと落おとし、風かぜに飛とばします。果鱗かりんは８～９個こほどで、それぞれに２～4個この種たねが入はいっています。

最高級建材さいこうきゅうけんざいとして大切たいせつにされてきたヒノキ

ヒノキは、年輪ねんりんが細こまかく、弾力性だんりょくせいにすぐれ、腐くさりにくく、丈夫じょうぶで美うつくしく、家いえ、神社じんじゃ、寺てらなどを建たてる材木ざいもくに適てきしており、古ふるくから建築材けんちくざいなどに利用りようされ、大切たいせつに保護ほごされ育そだてられてきました。

たとえば天然林てんねんりんの残のこる木曽きそでは、サワラ、ネズコ、アスナロ、コウヤマキと共ともに「木曾きその五木ごぼく」と呼よばれ、江戸時代えどじだいから保護ほごの対象たいしょうとされてきました。

木材もくざいとしては、丈夫じょうぶで、まっすぐで加工かこうしやすく、製材後せいざいごのくるいが少すくなく、湿気しっけに強つよく、堅かたさが適度てきどで、曲まがりが少すくなく、耐水性たいすいせいや耐久性たいきゅうせいにすぐれています。木きの中心部ちゅうしんぶが赤あかいスギと比くらべると、全体的ぜんたいてきに白しろっぽく、なめらかで艶つやがある美うつくしい木目もくめです。防虫効果ぼうちゅうこうかもあり、さわやかな香かおりが特徴とくちょうの木材もくざいです。

ヒノキは、奈良県ならけんの法隆寺ほうりゅうじや東大寺とうだいじの建材けんざいとして多用たようされております。

日本にほんに仏教ぶっきょうが伝つたわってから、たくさんの仏像ぶつぞうがつくられてきました。いろいろな木きが使つかわれていますが、針葉樹しんようじゅが多おおく、中なかでも仏像彫刻ぶつぞうちょうこくに一番いちばん多おおく使つかわれ、国宝こくほうも多おおいのがヒノキで、次つぎはカヤです。広葉樹こうようじゅでは、カツラや、香かおりの高たかいクスノキです。

香かおりさわやかなヒノキ

ヒノキには、強つよく長持ながもちする香かおり成分せいぶんが含ふくまれています。日本人にほんじん好ごのみの強つよい香かおりには、気分きぶんを落おち着つかせる効果こうかがあり、昔むかしから風呂桶ふろおけや洗あらい桶おけ、手桶ておけなどに利用りようされてきました。ヒノキには、アルファピネンやヒノキチオ―ルなどの香かおり成分せいぶんがあり、菌きんの繁殖はんしょくを抑おさえたり、ダニやシロアリを防ふせぐ働はたらきがあります。さらに、自分じぶんの邪魔じゃまになる、まわりの草木くさきの成育せいいくを抑おさえるのにも利用りようしています。わたしたちは、これらの性質せいしつを利用りようして、昔むかしから建物たてものを建たてる材ざいとして利用りようしてきました。また、昨今さっこんは、わたしたちの心こころをやわらげる効果こうかを利用りようし、ヒノキ林ばやしの森林浴しんりんよくや森林しんりんセラピーなどを行おこなっています。

千年以上せんねんいじょうも使つかえるヒノキ材ざい

スギに比くらべて成長せいちょうが遅おそい木きですが、香かおりが高たかく、光沢こうたくがあり、木目もくめが細こまかく、堅かたくて腐くさりにくい（耐久性たいきゅうせいが高たかい）ため、お寺てらや神社じんじゃなど長ながく使つかわれる建物たてものの材料ざいりょうとして欠かかせないものでした。

ヒノキ材ざいでしっかり造つくった建築物けんちくぶつは、千年せんねん以上いじょうも使つかえるといわれています。世界最古せかいさいこの木造建築もくぞうけんちく物ぶつである奈良県ならけんの法隆寺ほうりゅうじにも、ヒノキが多おおく使つかわれています。屋根やねもヒノキの木きの皮かわ「檜皮ひわだ」でふかれています。

日本にほんでは、スギは庶民しょみんの木き、ヒノキは王侯おうこう貴族きぞくの木きという概念がいねんが古ふるくからあり、宮殿きゅうでんや社寺しゃじはヒノキで造つくられ、代表的だいひょうてきなヒノキ建築けんちくは伊勢神宮いせじんぐうです。天皇家てんのうけの御料林ごりょうりんや、伊勢神宮いせじんぐうをはじめ各地かくちの神社仏閣じんじゃぶっかくでは、ヒノキを「社木しゃぼく」として植林しょくりん・管理かんりし、改築用かいちくようとして保存ほぞんしています。

徳川幕府とくがわばくふは、ヒノキを重要じゅうような木材もくざいであるとし、「ヒノキ一本いっぽん、首くびひとつ」と謳うたわれるほど、大切たいせつに管理かんりしてきました。木曾きそ全山ぜんざんは、幕府ばくふ御三家ごさんけの中なかでも尾張藩おわりはんが所有しょゆうし、木曽川きそがわを筏いかだで伐採ばっさいしたヒノキを流ながし、名古屋なごやの熱田あつたから全国ぜんこくに出だしてきました。明治めいじ以降いこうも、国有林こくゆうりんとして国くにが大切たいせつに管理かんりしています。

江戸時代えどじだいに歌舞伎かぶきが流行りゅうこうし、演劇舞台えんげきぶたいの基本きほんができましたが、歌舞伎かぶきや能楽のうがくで使つかわれる舞台ぶたいは、ヒノキでできており、役者やくしゃとして成功せいこうすることを「ヒノキ舞台ぶたいに立たつ」といわれますが、ヒノキ舞台ぶたいが正式せいしきな舞台ぶたいだからです。京都きょうとの清水寺きよみずでらの舞台ぶたいは、巨大きょだいなケヤキの柱はしらを建たて、貫ぬきを縦横じゅうおうに通とおし、楔くさびで組くみ固かためた土台どだいの上うえに約やく190枚まいのヒノキ板いたを張はり、造つくられています。

植林しょくりんされてきたヒノキ

ヒノキは、日本にほんでは最高級さいこうきゅうの建材けんざいとして利用価値りようかちも高たかく、各地かくちで広ひろく植林しょくりんされてきました。

日本にほんで一番いちばん、植林しょくりんされているスギは、肥沃ひよくで水分すいぶんのある谷部たにぶに、一方いっぽうのヒノキは尾根部おねぶの土壌どじょうが少すくなく乾燥気味かんそうぎみのところに植林しょくりんします。これは、自然状態しぜんじょうたいでのヒノキがそのような場所ばしょに生育せいいくしているためです。

天然てんねんのヒノキは、元来がんらい、森もりの中なかでは、スギと同おなじように広葉樹こうようじゅとの競争きょうそうに弱よわい木きですが、スギよりももう少すこし厳きびしい環境かんきょうにも耐たえられる針葉樹しんようじゅでもあります。このように、生物せいぶつと生物せいぶつの競争きょうそうの結果けっか、得えられた最適さいてきな場所ばしょを「生態的せいたいてき最適域さいてきいき」といいます。

自然しぜんの中なかではスギやヒノキの生育せいいくしている場所ばしょが限かぎられているのは、そのことが大おおきく影響えいきょうしています。

これに対たいし、植物間しょくぶつかんの競争きょうそうをなくして、その植物しょくぶつが最大さいだいの成長せいちょうをする環境かんきょうを「生理的せいりてき最適域さいてきいき」といいます。栽培さいばい植物しょくぶつは「生理的最適域せいりてきさいてきいき」を人為的じんいてきにつくることによって収量しゅうりょうを上あげています。

ヒノキの産地さんちは、天然てんねんヒノキの群生林ぐんせいりんがある「日本にほん三大さんだい美林びりん」のひとつ、長野県ながのけんと岐阜県ぎふけんの県境けんきょうにある木曾谷きそだにのヒノキのほか、三重みえ県けんの尾鷲おわせ、奈良県ならけんの吉野よしの、静岡県しずおかけんの天竜てんりゅうなどが有名ゆうめいブランドとして知しられています。

スギとヒノキの植林しょくりん地ちを比くらべると、先さきが尖とがったスギの葉はよりもヒノキの平ひらたい葉はの方ほうが、光ひかりをやや反射はんしゃするので、キラキラと光ひかって見みえます。