世界せかい中じゅうで愛あいされる栗くりの実みが生はえる木き

独特どくとくの香かおりに、上品じょうひんな甘あまみ、そして何なによりもボリューム。クリの実みは、焼やき栗くり、栗くりきんとん、マロングラッセなど世界せかい中じゅうで愛あいされてきた。今いまでは200種以上しゅいじょうの栽培用さいばいようの品種ひんしゅがあります。

長ながくて鋭するどいイガに包つつまれていて、秋あきになるとイガが茶色ちゃいろになり、やがてぱっくりと４つに割われ、中なかから褐色かっしょくのつやつやしたクリが3個こ、顔かおをのぞかせる、まさに木きの実みの王子おうじさまです。

クリの実みが黒くろっぽいことから「黒実くろみ」が転てんじて「クリ」と呼よばれるようになったという説せつや、クリとはそもそも石いしという意味いみで、実みの堅かたい殻からをクリと呼よんだという説せつ、また、朝鮮語ちょうせんごの「栗クリ」を意味いみする「Kulクル」から名付なづけられたという説せつなど諸説しょせつあります。

幹みきを観察かんさつしてみましょう

高たかさが15〜20mの落葉らくようする高木こうぼくで、幹みきの直径ちょっけいは１mになることがあります。天然てんねんのクリは、北海道ほっかいどうの日高地方ひだかちほうより南みなみ、本ほん州しゅう、四国しこく、九州きゅうしゅうの屋久島やくしまを南限なんげんとして、丘陵きゅうりょうや山地さんちに生育せいいくします。

クリの樹皮じゅひ

樹皮じゅひは灰色はいいろがかった黒色くろいろで、やや深ふかく縦たてに割われ目めが入はいっています。

クリの春はる

クリの冬芽とうがは、2月がつになると、ほころびはじめます。うす緑色みどりいろの葉はが生はえ、花はなになる穂ほも伸のびはじめます。

鋸歯きょしまで緑色みどりいろのクリの葉は

クリの葉はは、長ながい楕円形だえんけいで、先端せんたんは尖とがり、葉はもとは丸まるい形かたちです。葉はの縁へりには、緑色みどりいろの鋭するどいギザギザ（鋸歯きょし）があり、針はりのように尖とがっています。鋸歯きょしの先さきまで緑色みどりいろをしており、よく似にたクヌギの葉はと区別くべつができます。

葉はは単葉たんようで互生ごせいし、葉はの裏うらには柔やわらかい毛けと腺点せんてんがあり、淡あわい緑色みどりいろです。

葉はが緑色みどりいろのうちにイガが割われ、クリの実みがこぼれ落おち、その後ご、葉はは黄色きいろに色いろづき、散ちり落おちはじめます。

花はなを観察かんさつしてみましょう

冬芽とうがは2月がつにほころび、5月がつになると、小花こばなが房状ふさじょうに咲さきはじめます。花はなには独特どくとくの香かおりがあります。

６～７月がつ、木き全体ぜんたいをおおうように長ながさ10～15㎝の長ながい雄花おばなの穂ほが出でてきて、あたりに強つよい匂においをまきちらします。よく見みると、雄花おばなの穂ほのもとの方ほうに、雌花めばながひっそりと3つほどかたまって咲さいており、トゲのある緑色みどりいろの総苞そうほう（イガのもと）に包つつまれています。総苞そうほうは、やがてトゲトゲのイガの付ついた殻斗かくととなります。

クリの雄花おばなの長ながい穂ほ

長ながい雄花おばなの穂ほには、1本ぽんに約やく150個こもの雄花おばなが付ついていて、大量たいりょうの花粉かふんを撒まき散ちらしています。

花粉かふんは、風かぜにのり、雌めしべにたどりつこうとします。風かぜのほか雨水あまみずや昆虫こんちゅうが、雌花めばなに雄花おばなの花粉かふんを運はこびます。

できるだけ雌めしべにたくさんの花粉かふんが付ついた方ほうが、実みがよくでるからですね。

雄花おばなの穂ほは、雌花めばなが受粉じゅふんしたあと、落おちてしまいます。

クリの実みとイガ

やがて枯かれた雌花めばなの付つけ根ねで、クリの実みが育そだっていきます。

７月がつに実みができあがると、そのまわりを総苞そうほう（イガのもと）が包つつみます。この時点じてんでは、トゲはまだ、やわらかいです。

８月がつ、実みがさらに大おおきくなり、イガの先さきが硬かたくなってきます。

９月がつ、いよいよトゲトゲのイガ（殻斗かくと）になります。イガは、最初さいしょは緑色みどりいろでしたが、だんだんと茶色ちゃいろに熟じゅくしていきます。

そして、10月がつ、パカッと割われたイガの中なかから大おおきな三みっつのクリの実みが顔かおをのぞかせます。イガを触さわると、尖とがっていてとても痛いたいです。

人間にんげんが中なかのクリの実みをとる場合ばあい、専用せんようの道具どうぐを使つかうなどの工夫くふうが必要ひつようです。

また、クリの実みは渋皮しぶかわといわれる種皮しゅひにくるまれており、イガのよろい・・・と同おなじように、渋しぶく苦にがい味あじで、動物どうぶつや虫むしたちから実みを守まもるために役立やくだっています。

縄文時代じょうもんじだいから食糧しょくりょうとして大切たいせつにされてきたクリ

クリの実みは、ミネラルいっぱいで、ビタミンがずばぬけて多おおく、クリを1日にちに6個こか7個こ食たべると、おとな一日いちにちあたりに必要ひつような栄養えいようを満みたすことができます。

クリは縄文じょうもん時代じだいから近代きんだいまで、大切たいせつな食料しょくりょうとして大事だいじにされてきました。縄文人じょうもんじんたちは、ブナやコナラが生はえた豊ゆたかな森もりを切きり開ひらき、集落しゅうらくをつくっていました。そして、クリやクルミだけは切きらずに残のこし、集落しゅうらくのまわりにクリ林ばやしを作つくり管理かんりし、クリの実みを食料しょくりょうとして栽培さいばいしていたんですね。整然せいぜんと並ならんだクリの木きを植うえた跡あとが出土しゅつどしています。

弥生やよい時代じだいになると、大粒おおつぶのクリも盛さかんに栽培さいばいされており、ききんに備そなえて植うえたことが、「日本書紀にほんしょき」など古ふるい書物しょもつにも書かかれています。

さらに近年きんねんになると、小粒こつぶのシバグリだけでなく大粒おおつぶの丹波たんばグリが栽培さいばいされるようになり、お菓子かしなどに使つかわれるようになりました。

クリの実みをそのまま焼やいたり湯ゆがいたりするほか、栗くりご飯はん、栗くりおこわ、煮にしめ、栗くりきんとん、焼やき栗くり、栗くりの渋皮煮しぶかわに、栗くりようかんや栗蒸くりむし羊羹ようかん、栗くりしぼりなどの和菓子わがしや、マロングラッセやモンブラン（ケーキ）などの洋菓子ようがし、らくがんなどの干菓子ひがしなど、世界中せかいじゅうで愛あいされています。

五千ごせん年前ねんまえの日本にほんの縄文じょうもん遺跡いせきからかなり手てのこんだ縄文じょうもんグリのクッキーが発掘はっくつされています。どうやら焼やく前まえに酵母こうぼを使つかって発酵はっこうまでさせていたことが分わかっています。

建築けんちくや土木どぼくの建材けんざいとして使用しようされてきたクリ

樹木じゅもくは耐水性たいすいせいがあり、縄文じょうもん時代じだいには建築材けんちくざいとして使つかわれていました。

クリの木きの材ざいはとても丈夫じょうぶで、縄文じょうもん時代じだいの遺跡いせきでも数千すうせん年前ねんまえのクリの木きの柱はしらが出土しゅつどしているなど、腐くさりにくい資材しざいとして、建築けんちく材ざいや土木どぼく資材しざいなどに使つかわれてきました。かつてはクリ板いたの屋根やねや、東ひがし日本にほんでは丸木舟まるきぶねにも使つかわれてきました。

広大こうだいなクリ林ばやしが破壊はかいされたのは、明治めいじ5年ねんに鉄道てつどうが開通かいつうしてからです。その頃ころから昭和しょうわの半なかばまで、堅かたくて割われにくく、腐くさりにくく耐久性たいきゅうせいに優すぐれたクリ材ざいは、日本にほん全国ぜんこくの鉄道てつどうの枕木まくらぎとして使用しようされました。一時期いちじきは全国ぜんこくの枕木まくらぎの90パーセントがクリの材ざいとなるほど大量たいりょうのクリの木きを伐採ばっさいし、その後あと、使つかい捨すてされてしまったという歴史れきしがあります。