タブノキは、一年いちねん中じゅう、緑みどりの葉はを付つける常緑じょうりょくの広葉樹こうようじゅで、高木こうぼくです。自生じせいするタブノキは、暖あたたかい地域ちいきの海沿うみぞいの山やまに多おおく、日本にほんや朝鮮ちょうせん半島はんとうの南部なんぶ、台湾たいわん、中国ちゅうごくなど暖地だんちの海岸近かいがんちかくに生はえ、照しょう葉樹林ようじゅりんを代表だいひょうする木きで、枝えだを広ひろげ、大だい径けい木ぼくになる木きもあります。

もともとタブノキの巨木きょぼくがある森もりは、海岸かいがんの低地ていちや川かわの上流じょうりゅうから土砂どしゃが流ながれてきて蓄積ちくせきされた沖ちゅう積せき地ちであったり、内陸ないりく山地さんちの土壌どじょうの発達はったつしたところです。そこは非ひ常じょうにすぐれた生産性せいさんせいのある肥ひ沃よくな土地とちで、特とくに沖積ちゅうせき地ちは、上流じょうりゅうからの水みずが引ひき込こみやすい土地とちでもあったことから水田すいでんに適てきしていて、稲作いなさくの広ひろがりとともにタブノキの巨木林きょぼくりんは水田すいでんに変かわり、いつしか沖積ちゅうせき地ちでは見みられなくなっていきました。

少すこし残のこされているところは、礫れき（小ちいさい石いし）がいっぱい入はいっていて、耕作こうさく地ちには向むかない場所ばしょや、海岸樹林かいがんじゅりんのみです。

宮崎県みやざきけんでその姿すがたがわずかに残のこっているのが、日向ひゅうが市しから高鍋たかなべ町ちょうにかけての海岸かいがんや串くし間ま市しの海岸かいがん、鹿児かご島しま県側けんがわでは、志布志しぶし市しや肝付きもつき町ちょうなどの海岸かいがんです。

暖地だんちが好すきなタブノキですが、照葉しょうよう樹じゅの中なかでも寒さむさに非ひ常じょうに強つよいタイプの木きです。たとえば標高ひょうこう600～800m付近ふきんのえびの市し白鳥しらとり温泉おんせん付近ふきんには、常緑じょうりょく樹林じゅりんの保護ほご林りんがありますが、そこにはタブノキやアカガシ、スダジイ、モミの大だい径けい木ぼくをたくさん見みることができます。

タブノキの名なの由来ゆらい

タブノキは霊れいが宿やどる木きとされ、古代こだいでは信仰しんこうの対象たいしょうとなっていました。それが「霊たまの木き」であり、タモ、タブ、タブノキと変化へんかしたと考かんがえられています。

タブノキの幹みきと樹皮じゅひ

幹みきは、太ふとさ１mにもなります。若わかい枝えだは緑色みどりいろをしており、無毛むもうです。
樹皮じゅひは、やや灰色はいいろがかった淡褐たんかっ色しょくで、なめらかで、皮ひ目もくがあります。幼木ようぼくの樹皮じゅひは、縦たてに浅あさく裂さけ、筋すじ状じょうになっていますが、成木せいぼくになると、葉ははやや厚あつくなり、いぼ状じょうの皮ひ目もくがやや密みつにみられ、粒状つぶじょうに剥はがれます。

タブノキの葉は

夏なつ、枝葉えだはが茂しげり、もう果実かじつが肥ふとりはじめています。

夏なつは落葉らくよう樹じゅにとっていちばんの稼かせぎどきです。夏なつの強つよい光ひかりを受うけて、パワー全開ぜんかいで「光合成こうごうせい」をし、大切たいせつな糖類とうるいをつくり出だし、根ねから吸すい上あげた養分ようぶんや水分すいぶんと共ともに、一気いっきに翌年よくとしの芽め（冬芽とうが）までつくり上あげていきます。

葉はは、枝先えださきに互生ごせいします。長ながさは、やや長ながく、8～15cmほどです。形かたちは、長ながい楕だ円形えんけいで、先端せんたんは短みじかく突つき出でています。

葉はは、厚あつくて硬かたく、無毛むもうです。表おもてに艶つやがあり、縁へりにはギザギザ（鋸歯きょし）がありません。葉はをすかしてみると、細こまかい網あみの目めのような葉脈ようみゃくがよく見みられます。

新緑しんりょくの色いろが木きによっては極端きょくたんに赤あかくなります。

タブノキの冬芽とうが

鱗片りんぺんに包つつまれた大おおきい楕だ円形えんけいの冬芽とうがを1個こ、枝先えださきに付つけます。新芽しんめは、赤色あかいろが目立めだちますが、緑色みどりいろのものもあります。４〜５月がつ頃ごろ、芽鱗がりんに包つつまれていた冬芽とうががのび、全体ぜんたいに薄桃色うすももいろに色いろづき、まるで花はなのような芽めになります。

小ちいさな黄緑色きみどりいろの花はなが可憐かれんなタブノキ

花はなは、春はる（4～5月がつ）に咲さきます。新あたしい赤あかい芽めと一緒いっしょにつぼみが伸のびて、新あたらしい葉はと一緒いっしょに小ちいさな黄き緑みどり色いろの花はなが枝えだの先さきに多た数集すうあつまってまとまって付つき、みごとです。

個々ここの花はなは直ちょっ径けい1cmほどで目立めだちませんが、木き全体ぜんたいで大たい量りょうに花はなを付つけるため、多おおくの昆虫こんちゅうを呼よび寄よせます。

両りょう性せい花かです。タブノキの花はなには、花はなびらとガクが一緒いっしょになった花被かひは全ぜん部ぶで六むっつあり、雌めしべが1本ぽん、雄おしべが12本ほんあります。

赤あかい果軸かじくが美うつくしいタブノキの実み

５月がつ頃ごろ、緑色みどりいろの丸まるい形かたちをした、直径ちょっけい1cmほどの果実かじつが実みのります。実みは夏なつになると熟じゅくし、黒くろみがかった紫色むらさきいろの球形きゅうけいの、やわらかな実みになります。

赤あかい果か軸じくとの色いろの対たい比ひが目立めだち、鳥とりたち、特とくにムクドリの注ちゅう意いを誘さそいます。鳥とりたちは、好このんで熟じゅくした黒くろい実みを食たべにきます。薄うすい果皮かひをむくと、中なかがとろりとした緑色みどりいろの薄うすい果肉かにくが出でてきます。口くちにすると、ヤニ臭くさく、エグ味みがあります。アボカドも同おなじクスノキ科かの仲間なかまになります。味あじも同おなじクスノキ科かのアボカドに近ちかい味あじがします。果肉かにくには油脂ゆしをたっぷり含ふくんでおり、種たねは一ひとつです。

タブノキと暮くらす

クスノキの仲間なかまですが、クスノキにくらべて木きの質しつが悪わるく、香かおりも少すくないということで、イヌグスと呼よばれ、さげすまれましたが、実際じっさいは、タブノキはさまざまな用途ようとに利用りようされていました。この木きから古代人こだいじんは丸木舟まるきぶねをつくり、それに乗のって、大海原おおうなばらをわたり、日本にほんにやってきました。このようにタブノキは、かつては、海うみとのつながりが深ふかい木きでもありました。

建築材けんちくざいとして

タブノキの材ざいは、建築材けんちくざい、家具かぐ材ざい、彫ちょう刻材こくざいとして利用りようされてきました。

日本にほんの中ちゅう世せい期き、鎌倉かまくら時代じだい以降いこうの武家ぶけ社会しゃかいになると、大おおきな建物たてものを権力けんりょくの象徴しょうちょうとして建たてられましたが、昔むかしはタブノキの巨木きょぼくがたくさんあったということもあり、１メートル以い上じょうの幅はばの一枚板いちまいいたが床とこの間まや廊下ろうか、玄関げんかんなどに、たくさん使つかわれていました。

線香せんこうなどの糊のりとして

また、灰褐色はいかっしょくの樹皮じゅひは、黄き八はち丈じょうなどの黄褐色おうかっしょくの染料せんりょうとして用もちいられ、枝えだ葉はには粘液ねんえきが多おおく、乾かわかして粉こなにするとタブ粉こが得えられます。今いまでも皮かわを干ほして粉こなにしたものを練ねり、糊のりにして、香料こうりょうを混まぜて、「線香せんこう」を作つくっています。

種子しゅしからは蝋ろうや油あぶらがとれます。