けやけき木き「ケヤキ」

竹たけぼうきをさかさにしたような美うつくしい木きの形かたち（樹形じゅけい）で、遠とおくから見みても分わかりやすいのが、ケヤキの特徴とくちょうで、昔むかしから道みち沿ぞいにも植うえられ、旅人たびびとに木陰こかげをあたえてきました。今いまでも街路樹がいろじゅや公園樹こうえんじゅとして使つかわれているので、よく見みかけますね。

ケヤキは大木たいぼくになり、材ざいが堅かたく、姿すがたも美うつくしいことから古ふるくから人々ひとびとに大切たいせつにされてきました。そこで人々ひとびとはケヤキを「けやけき木き」と呼よび、それが転てんじて「ケヤキ」となったといわれています。「けやけき」とは「すぐれた」「きわだった」という意味いみの古ふるい言葉ことばです。

【さらに勉強べんきょうしたい人ひとのために】

ケヤキは、平安時代へいあんじだいよりも前まえは「つき（槻）」と呼よばれていました。つきは「強つよき木き」という意味いみです。やがて「つきの木き」は「ケヤキ」と呼よばれるようになり、「欅けやき」という漢字かんじをあてられるようになったということです。「欅けやき」という漢字かんじは、手てを挙あげているケヤキの姿すがたからつくられたとされています。

さあ全体ぜんたいの形かたちを細こまかく見みてみましょう。幹みきはまっすぐ伸のび、上うえの方ほうで次々つぎつぎに枝えだわかれし、全体ぜんたいが扇おおぎ形がたになっています。長ながい枝えだを花火はなびのように、のびのびと開ひらいていますね。枝えだをまっすぐに天てんに向むけ、思おもい切きり広ひろげているような立たち姿すがたは、とにかく美うつくしいと思おもいます。

神社じんじゃやお寺てらには、ケヤキの大木たいぼくがあります。ケヤキも巨樹きょじゅになりますと、がっしりと張はった根ねでたくましく、気高けだかい感かんじは神かみのようで、地域ちいきのシンボルツリーになります。

大おおきな鋸歯きょしがある葉は

葉はは、卵形たまごがたで、先さきは長ながく伸のび、基もとの部分ぶぶんは浅あさくくぼんでいます。縁へりには、大おおきく鋭するどいギザギザ（鋸歯きょし）があります。

葉はの裏うらと表おもて、特とくに表おもてには、硬かたくて短みじかい毛けがあり、ザラついていますね。

葉はは、互たがい違ちがいに付ついています（互生ごせい）。

★まずは春はるのケヤキ

春一番はるいちばんが吹ふくころ、少すこしずつ芽吹めぶきはじめます。

硬かたく閉とじていた冬芽とうががゆるんでいき、みずみずしい黄緑色きみどりいろの小ちいさな葉はがのぞきます。

この最初さいしょに芽吹めぶく若葉わかばを「着果短枝ちゃっかたんし」呼よびます。花はなを咲さかせる小枝こえだの芽めのことです。つづいて葉はだけを付つける「枝えだ（長枝ちょうし）」が開ひらきます。

このように春はるの新芽しんめは、前年ぜんねんに幹みきや枝えだなどに蓄たくわえた養分ようぶんを使つかって枝えだを伸のばし、葉はや花はなを付つけます。「着果ちゃっか短枝たんし」の花はなと長枝ちょうしが開ひらくと、「光合成こうごうせい」をするために、葉はを次々つぎつぎと広ひろげながら、新あたらしい枝えだ（長枝ちょうし）をぐんぐんと伸のばしていきます。

これらの枝えだが大おおきく広ひろがることで、太陽たいようの光ひかりをたくさん受うけとり、光合成こうごうせいで養分ようぶんをつくっていくのですね。

★つぎは夏なつのケヤキ

夏なつ、枝葉えだはが茂しげり、もう果実かじつが肥ふとりはじめています。

夏なつは落葉樹らくようじゅにとっていちばんの稼かせぎどきです。夏なつの強つよい光ひかりを受うけて、パワー全開ぜんかいで光合成こうごうせいをし、大切たいせつな糖類とうるいをつくりだし、根ねから吸すい上あげた養分ようぶんや水分すいぶんとともに、一気いっきに翌年よくとしの芽め（冬芽とうが）までつくりあげていきます。夏なつにはもう冬芽とうがのもとを観察かんさつすることができます。

★そして、秋あきのケヤキ

秋あきになりますと、「着果ちゃっか短枝たんし」の葉はは、茶色ちゃいろく枯かれはじめます。種たね（果実かじつ）を風かぜに舞まわせるころには、太陽たいようの光ひかりもしだいに弱よわくなり、長枝ちょうしに付ついた葉はでの「光合成こうごうせい」の効率こうりつも悪わるくなってきます。それまでさかんに「光合成こうごうせい」をしていた葉はたちは、しだいに力ちからを失うしない、「光合成こうごうせい」を行おこなう「葉緑素ようりょくそ」が分解ぶんかいされ、葉はの色いろが緑みどりから黄色きいろに変かわっていきます。

この時期じきのケヤキは、着果短枝ちゃっかたんしの茶色ちゃいろと、長枝ちょうしの緑みどりの葉はと、黄葉こうようした葉はが交まざりあい、ため息いきが出でるほど美うつくしい色いろあいをみせてくれます。

冬ふゆが近ちかづくと、木きに付ついている「着果ちゃっか短枝たんし」も減へり、「長枝ちょうし」の葉はも落葉らくようしていきます。

いっせいに散ちるのではなく、少すこしずつ散ちってゆくところが、ケヤキらしいところです。

夏なつにつくられた翌年よくとしの芽め（冬芽とうが）は、冬ふゆの休眠きゅうみんの季節きせつに向むけ、さらに充実じゅうじつしていき、冬ふゆの寒さむさと乾燥かんそうから身みを守まもるための皮かわ（芽鱗がりん）が、しっかりと冬芽とうがをくるみはじめます。

ケヤキの葉はの多おおくは淡あわい黄色きいろになったあと、茶色ちゃいろに枯かれていきます。

なかには赤あかく紅葉こうようしたり、オレンジ色いろになる葉はもあります。

【花はなを観察かんさつしてみましょう】

４月がつ、葉はが出でる頃ころ、薄うす緑色みどりいろの小ちいさな花はなが枝先えださきにかたまって付つきはじめます。

今年ことし伸のびた新あたらしい小枝こえだ（着果短枝ちゃっかたんし）の付つけ根ね（葉腋ようえき）に、雄花おばなが数個集すうこあつまって咲さいていますね。その小枝こえだの先さきの葉はの付つけ根ね（葉腋ようえき）には、雌花めばながひとつずつ咲さきはじめます。ケヤキは大木たいぼくであるのに、雄花おばなも雌花めばなもとても小ちいさくて、ほとんど目め立だちません。

【実みを観察かんさつしてみましょう】

秋あきのはじめに5mmほどの平ひらたい小ちいさな実みが付つきます。ケヤキの果実かじつは「痩果そうか」と呼よばれ、くだもの型がたの果実かじつのようにジューシーな実みではありません。果実かじつの皮かわと果実かじつの中なかにある種たねは、ぴったりとくっついていて、乾かわいています。

秋あきが深ふかまると、緑色みどりいろをしていたケヤキの果実かじつは、しだいに黄色きいろになっていき、やがて、こげ茶色ちゃいろに熟じゅくし、中なかの種たねもすっかり実みのっていきます。ちょっといびつな形かたちです。

種たねを付つけた「着果短枝ちゃっかたんし」の葉はは色いろづいて枯かれ、秋あきの強つよい風かぜに吹ふかれると、次々つぎつぎと枝元えだもとで切きり離はなされ、枯かれた葉はをプロペラにしてクルクルと風かぜに舞まいながら飛とびたってゆきます。より遠とおくへ、より広ひろい範囲はんいで、子孫しそんを残のこそうとしているからです。

「着果短枝ちゃっかたんし」は、いっせいには落おちません。秋口あきぐちから晩秋ばんしゅうまで少すこしずつ風かぜに舞まい落おちつづけます。時期じきをずらして、種たねをばらまき、いろいろな場所ばしょに散ちらばることで、芽生めばえることができる環境かんきょうにたどりつける確率かくりつを高たかくしているのです。

地面じめんに落おちた種たねは翌年よくとしの春はるに芽めを出だします。

天然界てんねんかいでは、純林じゅんりんはつくらないケヤキ

ケヤキは、ブナのように、天然てんねん界かいでは同おなじ木きばかりからなる大おおきな森もり（純森じゅんりん）をつくることはありません。しかし、人ひとの手てが入はいったり、自然しぜんの災害さいがいの結果けっか、他ほかの木きがなくなったときに、小ちいさな林はやし（群落ぐんらく）をつくることはあります。

たくさんの生いきものがともに生いきるケヤキ

年としをとったケヤキには、剥はがれかけた木きの皮かわ（樹皮じゅひ）が大おおきくめくれていることが多おおいです。この幹みきと皮かわのすき間まは、虫むしなどの小ちいさな生いきものたちにとって、かっこうのねぐらとなります。虫むしたちを、冬ふゆの寒さむさから守まもっているのですね。

カメムシの仲間なかま、テントウムシの仲間なかま、コバチの仲間なかま、クモ類るい、ヤスデやダンゴムシなど、一匹いっぴきあるいは同おなじ仲間なかまどうしで集あつまって木きの皮かわの下したに身みを寄よせ合あいながら、ひと冬ふゆを越こします。寒さむさから身みを守まもり、鳥とりなどの外敵がいてきから食たべられないようにしているのでしょうね。虫むしが多おおいということは、鳥とりたちも多おおくやってきます。大おおきなケヤキにはアオバズクなど鳥とりたちが棲すむことがあります。

★屋敷林やしきりんの木きとして愛あいされて

古ふるくから人々ひとびとのくらしを見守みまってきたケヤキは、姿すがたがよくて大木たいぼくになるので、「屋敷林やしきりんの木き」として、家いえのまわりによく植うえられてきました。

夏なつは青葉あおばが日光にっこうをさえぎり、緑みどりの木陰こかげをつくり、暑あつい日差ひざしをさえぎってくれます。

そして冬ふゆになると、すっかり落おちた葉はは、光ひかりをさえぎることなく、庭にわに暖あたたかな陽ひだまりをつくってくれます。

屋敷林やしきりんは、風かぜを防ふせぎ、燃料ねんりょうの薪まきを与あたえ、落おち葉ばは、土つちづくりに大切たいせつな堆肥たいひになります。

屋敷林やしきりんでは、ケヤキとともにコナラやクヌギ、クリ、カキなども育そだてられ、コナラやクヌギは薪まきや炭すみに、またクリやカキは食たべものになり、大切たいせつにされてきました。

その中なかでひときわ大おおきくなるケヤキは、腐くさりにくく、木目もくめが美うつくしく、家いえを守まもるシンボルツリーとして親したしまれ、親おやから子こへ、孫まごへと100年ねん以上いじょうも大切たいせつにうけつがれていき、最後さいごには家いえの建たて替かえのときの木材もくざい（建材けんざい）として、家いえの梁はりや大黒柱だいこくばしらに利用りようされてきました。

また、美うつくしい木目もくめのあるケヤキは、家いえの大切たいせつな家具かぐとなり、人々ひとびとの暮くらしの中なかで、代々だいだい、引ひき継つがれながら使つかわれてきました。

★木目もくめの美うつくしいケヤキは、広葉樹こうようじゅの王おうさま

ケヤキの材ざいは堅かたくて丈夫じょうぶで、年輪ねんりんも美うつくしく、さまざまなものに利用りようされています。幹みきを切きって板いたにすると、木目もくめがたいへん美うつくしく、材ざいとしても貴重きちょうで、「広葉樹こうようじゅの王おうさま」とも呼よばれ、古ふるくから調度品ちょうどひん、美術工芸品びじゅつこうげいひんの材ざいとして愛あいされてきました。

ケヤキ材ざいのいちばんの特徴とくちょうは、堅かたく、重おもく、強つよいことです。

★針葉樹しんようじゅのスギと薪割まきわりでくらべてみましょう

針葉樹しんようじゅのスギは柔やわらかく、オノを打うち込こむと、スパッとまっすぐに割われます。それに対たいし、広葉樹こうようじゅのケヤキは堅かたく、なかなかうまく割われません。割わり口くちも、うねるようにデコボコになってしまいます。スギは繊維せんいがまっすぐ通とおっていますが、ケヤキはまっすぐではないからです。

その特徴とくちょうを生いかし、床板ゆかいたには肌はだざわりの柔やわらかいスギを敷しき、玄関げんかんの上あがり口ぐちなど強度きょうどが必要ひつようなところには、堅かたいケヤキを使つかうといったぐあいに使つかい分わけがされています。

★「杢もく」と呼よばれる独特どくとくな模様もようの木目もくめ

また、年数ねんすうがたったケヤキの大木たいぼくには、「杢もく」と呼よばれる独特どくとくの木目もくめ模様もようができることがあります。そのような銘木めいぼく（価値かちの高たかいすぐれた材ざい）の板いたは、1枚まいが何十万円なんじゅうまんえんから何百万円なんびゃくまんえんという高たかい値段ねだんで取とり引ひきされます。

「杢もく」とは、木きが育そだつ中なかで、なんらかの圧力あつりょくを受うけて、普通ふつうと違ちがう模様もようになった木目もくめのことをいいますが、ケヤキの「杢もく」はたいへん美うつくしく、材ざいとして人気にんきがあり、家具かぐやお盆ぼん、臼うす、器うつわなどにも使つかわれてきました。和太鼓わだいこの胴どうとしても古ふるくから利用りようされてきました。というのも、美うつくしい模様もように加くわえ、材ざいが堅かたく密度みつどが高たかいので、太鼓たいこの鳴なりがとても良よくなるからです。

★清水寺きよみずでらの舞台ぶたいを支ささえるケヤキ

有名ゆうめいな京都きょうとにある清水寺きよみずでらのヒノキ舞台ぶたいを支ささえているのも、実じつはケヤキです。なんと139本ほんものケヤキの柱はしらで支ささえています。樹齢じゅれい300年ねん以上いじょうのケヤキの大木たいぼくを、釘くぎを一本いっぽんも使つかわずに組くんでいるんですよ。

このようにケヤキ材ざいは強度きょうどがすぐれているうえ、材ざいの美うつくしさから高級材こうきゅうざいとされ、神社じんじゃやお寺てらなどの建築材けんちくざいとして古ふるくから使つかわれてきました。

清水寺きよみずでらでは、400年後ねんごの大改修だいかいしゅうを見み越こし、独自どくじにケヤキの林はやしをつくり、育そだてています。