イチイガシは、ブナ科かの常緑じょうりょくの広葉こうよう樹じゅで、クリ、コナラなども同おなじブナ科かの仲間なかまです。

本州ほんしゅうの関東かんとう地方ちほう南部なんぶ以西いせいの主おもに太平洋たいへいよう側がわ、四国しこくや九州きゅうしゅうに分布ぶんぷします。谷沿たにぞいなど湿潤しつじゅんで肥沃ひよくなところで、大木たいぼくのイチイガシに出会であうことがあります。幹みきは直立ちょくりつし、枝えだを周囲しゅういに広ひろげた堂々どうどうとした姿すがたは、神々こうごうしく、圧倒あっとうされます。

全国ぜんこくの大おおきな神社じんじゃ、伊勢いせ神宮じんぐう、厳島いつくしま神社じんじゃや大分おおいたの宇佐うさ神宮じんぐうなどには必かならずといっていいほどイチイガシの巨木きょぼくがあります。宮崎みやざき県けんであれば、行縢むかばき神社じんじゃや十根川とねがわ神社じんじゃ、霧島きりしま岑みね神社じんじゃなどにあり、ご神木しんぼくの一ひとつとなっています。巨木きょぼくになるということは、その土地とちの環境かんきょうが良よいということで、日本にほんの農耕のうこう文化ぶんかと結むすびつきのある木きとなっています。

日本にほんに農耕のうこう文化ぶんかが入はいってきた当初とうしょは、「焼やき畑はた」が中心ちゅうしんでした。奈良なら時代じだいになり、朝廷ちょうていの力ちからも強つよくなり、律令りつりょう制度せいどが確立かくりつし、国くにが耕地こうちを分配ぶんぱいする「班田はんでん」と税ぜい制度せいど「租庸調そようちょう」の仕組しくみみが全国ぜんこくに広ひろがり、畑地はたちが焼やき畑はたから「常畑じょうばた」になっていきました。そのとき、土壌どじょうの良よいところを見極みきわめる一ひとつの目印めじるしになったのが、西にし日本にほんではイチイガシの巨木きょぼくの森もりでした。

イチイガシの森もりは非常ひじょうに肥沃ひよくな土地とちとなっていて、そこを耕たがやして畑はたけを作つくれば作物さくもつがよくできたことから、いわゆる豊穣ほうじょうのシンボルがイチイガシとなっていることが多おおいようです。

宮崎みやざき県内けんないでは、木城きじょう町ちょうが「カシ」をシンボルツリーに指定していしています。

材ざいは堅かたくて木目もくめが美うつくしく、昔むかしから船ふねの櫓ろに使つかわれてきたほか、家具かぐ材ざい、農具のうぐなどの器具きぐ材ざい、建築けんちく材ざいなどに重宝ちょうほうされてきました。

堅かたい果実かじつ（堅果けんか）は、ドングリの中なかでカシ類るいのドングリでイチイガシだけが生なまで食たべられることから、古代こだいより食しょくされてきました。

イチイガシの名前なまえの由来ゆらい

イチイガシは、材ざいが非常ひじょうに堅かたく、昔むかしの木造船もくぞうせんの時代じだいには舟ふねをこぐ艪ろや舵かじ、船ふねの骨格こっかく部分ぶぶんなどに使用しようされ、古代こだいより非常ひじょうに重要じゅうよう視しされていた木きでした。

また、樹高じゅこうも高たかく、大おおきな木きになることから、「一番いちばんのカシ（一位樫いちいがし）」といわれ「イチイガシ」となったという説せつがあります。

ほかにも「神聖しんせいな木き」という意味いみの「齋樫いちかし」、あるいは「よく燃もえる」という意味いみで「最火いちび」や、カシ類るいでいちばんよく燃もえることから「一火樫いちひがし」などが訛なまったものという説せつなど、諸説しょせつあります。

イチイガシの幹みきと樹皮じゅひ

樹皮じゅひは、黒褐色こくかっしょくから灰褐色はいかっしょくです。

老木ろうぼくになると、うろこ状じょうに不規則ふきそくにポロポロと剥はがれ落おちます。

剥はがれ落おちたあと、波状なみじょうの模様もようが現あらわれるので、ほかの種しゅと区別くべつしやすくなります。

イチイガシの葉はを観察かんさつしてみましょう

葉はは単葉たんようで互生ごせいし、長ながさ6cm〜14cmの葉はは、硬かたく、陽光ようこうを反射はんしゃして、よく光ひかります。

先端せんたんは、鋭するどく尖とがっており、鋭するどいギザギザ（鋸歯きょし）が葉はの半なかばから先さきの方ほうにだけあります。

古ふるい葉はの葉身ようしんは革質かくしつで、濃こい緑色みどりいろで光沢こうたくがあります。

イチイガシの若葉わかば

若葉わかばは枝先えださきにまとまって付つきます。

若わかい枝えだや若葉わかばには、淡あわい灰褐色はいかっしょくの毛けでおおわれます。

葉はは、初はじめはやわらかく、まったく艶つやがありません。遠とおくから見みると、くすんだ灰褐色はいかっしょくの粉こなをふいたような様子ようすです。

成長せいちょうするにつれ、葉はの表おもてにあった、たくさんの毛けがとれ、点状てんじょうに少すこし残のこるだけになり、光沢こうたくが増ましてきます。

イチイガシの葉はの裏うら

葉はの裏うらには、淡褐色たんかっしょくの毛けが密生みっせいしており、樹木じゅもく全体ぜんたいが茶色ちゃいろっぽく見みえます。

また、葉はの裏側うらがわの葉脈ようみゃくは、突出とっしゅつしており、表おもてよりは色いろは、やや白しろっぽく見みえます。

イチイガシの花はなを観察かんさつしよう！

雌雄しゆう同株どうしゅで、4～5月頃がつごろ、長ながさ5～16cmの細長ほそながい穂ほになって咲さいた雄花おばな（花序かじょ）が新あたらしい枝えだの下部かぶから垂たれ下さがります。

灰緑色はいりょくしょくの若葉わかばと濃こい緑色みどりいろの成葉せいようの中なかではあまり目立めだちません。そのようなときは、足元あしもとを見みると、雄花おばなの花序かじょが落おちている場合ばあいもあるので、よく観察かんさつしてみましょう。

雌花めばなも数個すうこ、穂ほになって咲さきますが、あまり目立めだちません。

イチイガシのドングリ

花はなが咲さいた年としの秋あきに楕だ円形えんけいの果実かじつ（堅果けんか）が熟じゅくします（一年いちねん成なり）。

ドングリは樽型たるがたで、実みの上部じょうぶには、淡褐色たんかっしょくの毛けが多おおく密生みっせいし、表面ひょうめんには、はっきりとした縦筋たてすじの模様もようが入はいっています。

殻斗かくとは深ふかい杯さかずき形がたです。

鱗片りんぺんでできた環わを同心どうしん円状えんじょうに積つみ重かさねた形かたちになっており、環わの段数だんすうは6段だんか7段だんです。黄褐色おうかっしょくの短みじかい星状毛せいじょうもうが密生みっせいしています。

縦筋たてすじの模様もようが入はいっているドングリ

ドングリを食たべる

イチイガシのドングリは、ブナ科かの中なかでは、アクやタンニンが非常ひじょうに少すくなく、ほかのドングリが、しっかりアク抜ぬきしないと食たべにくいのに対たいし、生なまで食たべることができるほど、アクが少すくなく、食たべやすいものとなっています。

このため、南みなみ九州きゅうしゅうの縄文じょうもん遺跡いせきの食料しょくりょうの貯蔵ちょぞう庫跡こあとから出でてくる炭化たんかしたドングリは、ほとんどがイチイガシのドングリといわれ、縄文じょうもん時代じだいから大切たいせつな食料しょくりょうであったことが分わかっています。

米こめづくりのための農具のうぐの材ざいとして

農業のうぎょうが本格的ほんかくてきに始はじまった弥生やよい時代じだい、日本にほん人じんは田たで稲いねを育そだて、その実みである「米こめ」は貴重きちょうな食物たべものでした。当時とうじは、鋤すきや鍬くわといった農具のうぐのほとんどが堅かたい木きで作つくられてきました。そのときに九州きゅうしゅうで利用りようされたのが、イチイガシ、アラカシ、アカガシ、マテバシイなどの堅かたい木きです。また、スギなど、田たの周辺しゅうへんで手てに入いれやすい材ざいもたくさん使つかわれました。このように木きは、米こめづくりの歩あゆみと深ふかいかかわりがあります。

稲いねの原産地げんさんちはアジアで、日本にほんでは3000年ねんくらい前まえから水田すいでん栽培さいばいが始はじまったといわれています。田植たうえや稲刈いねかりなどを効率こうりつよくするため、米こめづくりに使つかわれる道具どうぐもさまざま考案こうあんされ、工夫くふうされていきました。たとえば地面じめんを掘ほり起おこすときに使つかう鍬くわは、平ひらたい板いたを長ながい柄えの先さきに角度かくどをつけて取とり付つけたものですが、イチイガシや付近ふきんに生はえていた丈夫じょうぶな木きでできていました。鉄てつが普及ふきゅうするようになると、刃はの先さきだけを鉄てつに変かえました。地域ちいきによっては昭和しょうわの半なかばまで使つかわれてきました。

とくに大正たいしょう時代じだい、動力どうりょく機械きかいが普及ふきゅうしていない時代じだいには、牛うしや馬うまが貴重きちょうな米こめづくりの担にない手てでした。牛馬ぎゅうばに取とり付つけ引ひかせる、田起たおこし作業さぎょうのための「鋤すき」や代掻しろかき作業さぎょう用ようの「馬鍬まんが」などの農具のうぐは、イチイガシなどの堅かたくてしなやかな木きを利用りようしていました。

お米こめを食たべるための道具どうぐも木きでした。収穫しゅうかくした稲いねから実み（モミ）を落おとす脱穀だっこく作業さぎょうの後あとに、モミからモミ殻がらを取とりのぞく「モミすり」をして玄米げんまいができます。稲作いなさくが機械化きかいかされるようになるまで、稲刈いねかりでは、「鎌かま」、脱穀だっこくのための「千歯せんばこき」が使つかわれました。また、マツやクリなどは、「モミすり用ようの木摺きすり臼うす」、ケヤキやマツ、カシ類るいは、玄米げんまいを精米せいまいするための「臼うす」と「杵きね」などに利用りようしました。