カヤはイチイ科かの常緑じょうりょくの針葉樹しんようじゅで、同おなじイチイ科かにイチイという仲間なかまの木きがありますが、カヤ属ぞくのカヤは日本にほんに一種類いっしゅるいしかありません。

高たかさ25mにもなる高木こうぼくで、幹みきの直径ちょっけいは２mにもなります。天然てんねんのカヤは、本州ほんしゅうの宮城県以南みやぎけんいなん、四国しこく、九州きゅうしゅうに分布ぶんぷしますが、全国ぜんこくで庭木にわきや公園樹こうえんじゅとして人気にんきがあります。

天然てんねんのカヤは基本的きほんてきには照葉樹林帯しょうようじゅりんたいの湿しめった崖がけでも育そだちます。耐陰性たいいんせいが強つよく、森林しんりんの中なかや木陰こかげなどあまり日ひが照てらないところでも育そだちます。成長せいちょうは極きわめて遅おそいですが、寿命じゅみょうは長ながく、大木たいぼくに育そだちます。

宮崎県みやざきけんをはじめ鹿児かご島県しまけんや熊本県くまもとけんの神社じんじゃの境内けいだいには、胸高きょうこうの直径ちょっけい１mを優ゆうに超こえる巨木きょぼくが地域ちいきのご神木しんぼくとして残のこされ、大切たいせつにされています。

宮崎県みやざきけんのカヤ

宮崎県みやざきけんは、カヤ良材りょうざいの産地さんちとして知しられています。綾町あやちょうには500年経ねんたって伐採ばっさいするという計画けいかくの「25世紀せいきの森もり」という植林しょくりんもあります。500年後ねんごのカヤの森もりを想像そうぞうしてみるのも面白おもしろいかもしれませんね。

カヤの材ざいは淡あわいクリーム色いろで独特どくとくの光沢こうたくがあり、なめらかで耐久性たいきゅうせいが高たかく、建築材けんちくざいや櫛くしなどの器具きぐ、家具かぐや彫刻ちょうこくなどに使つかわれてきました。特とくに樹齢じゅれい300年以上ねんいじょうのカヤで作つくった碁盤ごばんや将棋盤しょうぎばんは最高級品さいこうきゅうひんとされてきました。

縄文時代じょうもんじだいは、丸木舟まるきぶねなどの舟材せんざいとして利用りようされてきました。

カヤの名なの由来ゆらい

カヤの名前なまえの由来ゆらいは、この木きの根ねや枝葉えだはを燃もやすと、煙けむりに薬用やくよう成分せいぶんがあり、蚊かを追おい遣やる効果こうかがあることから「蚊遣かやりの木き」といわれ、これが詰つまってカヤとなりました。

カヤの幹みきと樹皮じゅひ

幹みきはまっすぐに伸のび直立ちょくりつし、広ひろい円錐形えんすいけいです。

樹高じゅこうは高たかく、枝えだはやや水平すいへいに開ひらきます。

樹皮じゅひは乾皮かんぴで、深ふかいひだがあり、灰白色かいはくしょくあるいは灰褐色はいかっしょくです。

幼木ようぼくのときは、樹皮じゅひは淡灰色たんかいしょくでなめらかですが、成長せいちょうとともに樹皮じゅひは濃こくなり、縦たてに浅あさく裂さけ、短冊状たんざくじょうに剥はがれやすくなります。

枝えだは無毛むもうです。枝えだの色いろは初はじめは緑色みどりいろですが、3年目ねんめには赤褐色あかかっしょくになります。

触さわると痛いたいカヤの葉は

葉ははらせん状じょうに互生ごせいし、水平すいへいに2列れつに並ならび、羽はねのように見みえます。葉はの大おおきさは、長ながさ2～3cm、幅はば2～3mmほどで、形かたちは線形せんけいで扁平へんぺい、先端せんたんは鋭するどく尖とがっています。手てで触さわると、チクチク刺ささってかなり痛いたいです。よく似にたイヌガヤは、葉はがやわらかく、握にぎっても痛いたくありません。

葉はの表おもての色いろは深ふか緑みどり色いろですが、裏うらの色いろは淡緑色たんりょくしょくで、表裏おもてうらがはっきりしています。

葉はの裏うらには、白しろく目立めだつ二条にじょうの気孔帯きこうたい（気孔きこうの集あつまり）があります。

カヤの花はなと実み

5月がつ頃ごろ、雄花おばなが前年ぜんねん枝しの葉はの裏面うらめんの付つけ根ね（葉腋ようえき）に多数たすう咲さきます。

雄花おばなの長ながさは、１cmほどの長ちょう楕円形だえんけいです。秋あきには熟じゅくし、クリーム色いろになり、花粉かふんを飛とばします。

同おなじころ、緑色みどりいろをした楕円形だえんけいの雌花めばなが、前年ぜんねん枝しの先端せんたんにある新あたらしい葉はの基部きぶに数個すうこ付つきます。雌花めばなは、あまり目立めだちません。

数個すうこの雌花めばなの内うち1個こだけが、2cmほどの緑みどりの楕円形だえんけいの実みになります。裸子らし植物しょくぶつなので果実かじつではありません。厚あつい果肉かにく状じょうの皮かわをかぶっており、この皮かわを「仮種皮かりしゅひ」と呼よびます。

年としを越こして翌年よくとしの10月がつごろには実みは黒くろく熟じゅくして紫褐色しかっしょくとなり、地面じめんに落おちます。なかには仮種皮かりしゅひが割われて剥はがれ、種たねが地面じめんにバラバラと落おちるものもあります。そのとき独特どくとくの芳香ほうこうが漂ただよいます。落おちている種子しゅしをさわると、種子しゅしを包つつんでいる仮種皮かりしゅひは、繊維せんい質しつなので簡単かんたんにくずれます。

カヤの実みを食たべる

種子しゅしは明あかるい茶色ちゃいろで、硬かたい種皮しゅひ（殻から）に包つつまれており、見みた目めはアーモンドのようです。

種皮しゅひを石いしで割わると、中なかにもう一枚いちまい、ひだがある種皮しゅひが出でてきます。食たべることができますが、ちょっとヤニ臭くさいです。油分ゆぶんが多おおく、おいしいです。

昔むかしの人ひとは、「カヤの実み」を大事だいじに拾ひろい、アク抜ぬきし天日てんぴで干ほしたものを煎いっておやつに食たべていたそうです。アーモンドよりも香かおりが高たかいナッツとなり、戦後せんごは食糧しょくりょう難なんを支ささえていたということです。また、近年きんねんだけでなく、縄文じょうもん遺跡いせきからも保存ほぞんされたカヤの実みが出土しゅつどしています。

また、カヤの実みは相撲すもうの土俵どひょうの「鎮しずめもの」としても使つかわれています。米こめ、塩しお、スルメ、昆布こんぶ、クリなどとともに土俵どひょう中央ちゅうおう部ぶの穴あなに埋うめられています。

山やまでは、ネズミやリスなどが冬ふゆの食糧しょくりょうにと運はこんで埋うめ、その一部いちぶが忘わすれられて芽めを出だします。このようにカヤは森もりのあちこちに動物どうぶつによって運はこばれ、何千万年なんぜんまんねんも前まえから生いきてきたのですね。

カヤの実油じつゆ

種たねには油脂分ゆしぶんが多おおいので、油あぶらを搾しぼり、食用しょくようとしていました。この油あぶらで揚あげた天てんぷらは、サッパリとして非常ひじょうにおいしいです。

そのほか灯油とうゆや整髪料せいはつりょう、塗料とりょう、寄生虫きせいちゅうの駆除くじょに利用りようされてきました。

カヤの材ざいでつくられるもの

カヤの材ざいは緻密ちみつで狂くるいがなく、淡あわいクリーム色いろで独特どくとくの光沢こうたくがあります。また、なめらかで耐久たいきゅう性せいが高たかく、建築けんちく材ざいなどの器具きぐ、家具かぐや彫刻ちょうこくなどに使つかわれてきました。

また、カヤは樹脂じゅしが多おおく、水みずや湿気しっけに強つよいため、風呂ふろ桶おけなどの浴室用具よくしつようぐや船舶材せんぱくざいなどに使つかわれることがありますが、成長せいちょうが遅おそく、カヤ材ざい自体じたいの生産せいさん量りょうがたいへん少すくないため、このような使つかい方かたは稀まれになっています。

碁盤ごばんや将棋盤しょうぎばんの最高級素材さいこうきゅうそざいとして

カヤの材ざいの最もっとも知しられている用途ようととしては碁盤ごばん、将棋しょうぎ盤ばんとなっています。これらはカヤ材ざいでつくられたものが最さい高級こうきゅう品ひんとされていて、特とくに宮崎みやざき県けん綾町あやちょうで作つくられているものは全国ぜんこく的てきに高たかい評価ひょうかを受うけています。

ただしカヤといっても、碁盤ごばんなどに使用しようする高級こうきゅうな材料ざいりょうになるには300年ねん以上いじょうかかるといわれ、銘木めいぼくと言いわれるカヤ材ざいは１本ぽんが一千いっせん万円まんえんという価値かちが出でるまでに、およそ400年ねんから500年ねんかかるといわれています。年数ねんすうのたったカヤ材ざいは、しなやかさが特徴とくちょうで、碁石ごいしを打うったときに良よい音おとが響ひびきます。特とくに「日向ひゅうが榧かや」は名高なだかいです。

碁盤ごばんや将棋しょうぎ盤ばんには、そのほかカツラ、イチョウなどが使つかわれてきました。碁石ごいしを入いれる碁笥ごけには、ケヤキやケンポナシなどの木目もくめの美うつくしい木きが用もちいられます。

将棋しょうぎには、ツゲやヤブツバキ、マテバシイ、ヒイラギなどの堅かたい木きが使つかわれ、文字もじは漆うるしで書かき込こまれます。

仏像ぶつぞうにカヤ材ざい、洗張あらいはりの張はり板いたにカヤ材ざい

カヤ材ざいは仏像ぶつぞうの彫刻ちょうこくに最適さいてきな材ざいといわれています。そのことは、平安へいあん時代じだいから鎌倉かまくら時代じだいにかけて、関東かんとう地方ちほうで作つくられた仏像ぶつぞうのほとんどが、カヤを材料ざいりょうとしていることからも分わかります。刃物はものの切きれも良よく、釘くぎを打うっても材ざいが割われないからでしょう。

ただカヤは独特どくとくの芳香ほうこうが強つよく、内装ないそう材ざいとしては不向ふむきです。

カヤの材面ざいめんは、とてもなめらかで、糊のりの剥はがれが良よいことから和服わふくの洗張あらいばりの張はり板いたに使つかわれていました。昭和しょうわ30年ねん頃ごろまでは、嫁よめ入いり道具どうぐの一ひとつとし洗張あらいはり板いたは欠かかせないものでしたが、戦後せんご、カヤ材ざいが枯渇こかつしたこと、また、衣い食しょく住じゅうの和わ文化ぶんかが廃すたれたこともあり、この風習ふうしゅうもなくなってゆきました。