樹木の概要
ケヤキ
- 樹種(じゅしゅ):ケヤキ
- 学名(がくめい):Zelkova serrata
- 漢字(かんじ):欅
- 分類(ぶんるい):ニレ科ケヤキ属
- 別名(べつめい):ツキ、ツク
- 分布(ぶんぷ):本州、四国、九州
- 形態(けいたい):落葉広葉高木
- 樹形(じゅけい):杯形
- 樹高(じゅこう):20m
- 雌雄(しゆう):雌雄同株・雌雄異花
- 花(はな):4~5月/1~3mm(直径)
- 実(み):花が咲いた翌年の秋(10~11月)/1.2~1.7cm(直径)
- 特徴(とくちょう):大木になる。木目が美しく、材質が堅い。秋の紅葉は上品で落ちついた雰囲気がある。高級材として神社仏閣や美術工芸品の材として大切にされてきた。乾燥、大気汚染、潮風には弱い。宮崎県日之影町の木
樹形が美しい日本の代表的な落葉広葉樹
ケヤキの話
けやけき木「ケヤキ」
竹ぼうきをさかさにしたような美しい木の形(樹形)で、遠くから見ても分かりやすいのが、ケヤキの特徴で、昔から道沿いにも植えられ、旅人に木陰をあたえてきました。今でも街路樹や公園樹として使われているので、よく見かけますね。
ケヤキは大木になり、材が堅く、姿も美しいことから古くから人々に大切にされてきました。そこで人々はケヤキを「けやけき木」と呼び、それが転じて「ケヤキ」となったといわれています。「けやけき」とは「すぐれた」「きわだった」という意味の古い言葉です。
【さらに勉強したい人のために】
ケヤキは、平安時代よりも前は「つき(槻)」と呼ばれていました。つきは「強き木」という意味です。やがて「つきの木」は「ケヤキ」と呼ばれるようになり、「欅」という漢字をあてられるようになったということです。「欅」という漢字は、手を挙げているケヤキの姿からつくられたとされています。
さあ全体の形を細かく見てみましょう。幹はまっすぐ伸び、上の方で次々に枝わかれし、全体が扇形になっています。長い枝を花火のように、のびのびと開いていますね。枝をまっすぐに天に向け、思い切り広げているような立ち姿は、とにかく美しいと思います。
神社やお寺には、ケヤキの大木があります。ケヤキも巨樹になりますと、がっしりと張った根でたくましく、気高い感じは神のようで、地域のシンボルツリーになります。
ケヤキを観察しよう!
大きな鋸歯がある葉
葉は、卵形で、先は長く伸び、基の部分は浅くくぼんでいます。縁には、大きく鋭いギザギザ(鋸歯)があります。
葉の裏と表、特に表には、硬くて短い毛があり、ザラついていますね。
葉は、互い違いに付いています(互生)。
★まずは春のケヤキ
春一番が吹くころ、少しずつ芽吹きはじめます。
硬く閉じていた冬芽がゆるんでいき、みずみずしい黄緑色の小さな葉がのぞきます。
この最初に芽吹く若葉を「着果短枝」呼びます。花を咲かせる小枝の芽のことです。つづいて葉だけを付ける「枝(長枝)」が開きます。
このように春の新芽は、前年に幹や枝などに蓄えた養分を使って枝を伸ばし、葉や花を付けます。「着果短枝」の花と長枝が開くと、「光合成」をするために、葉を次々と広げながら、新しい枝(長枝)をぐんぐんと伸ばしていきます。
これらの枝が大きく広がることで、太陽の光をたくさん受けとり、光合成で養分をつくっていくのですね。
★つぎは夏のケヤキ
夏、枝葉が茂り、もう果実が肥りはじめています。
夏は落葉樹にとっていちばんの稼ぎどきです。夏の強い光を受けて、パワー全開で光合成をし、大切な糖類をつくりだし、根から吸い上げた養分や水分とともに、一気に翌年の芽(冬芽)までつくりあげていきます。夏にはもう冬芽のもとを観察することができます。
★そして、秋のケヤキ
秋になりますと、「着果短枝」の葉は、茶色く枯れはじめます。種(果実)を風に舞わせるころには、太陽の光もしだいに弱くなり、長枝に付いた葉での「光合成」の効率も悪くなってきます。それまでさかんに「光合成」をしていた葉たちは、しだいに力を失い、「光合成」を行う「葉緑素」が分解され、葉の色が緑から黄色に変わっていきます。
この時期のケヤキは、着果短枝の茶色と、長枝の緑の葉と、黄葉した葉が交ざりあい、ため息が出るほど美しい色あいをみせてくれます。
冬が近づくと、木に付いている「着果短枝」も減り、「長枝」の葉も落葉していきます。
いっせいに散るのではなく、少しずつ散ってゆくところが、ケヤキらしいところです。
夏につくられた翌年の芽(冬芽)は、冬の休眠の季節に向け、さらに充実していき、冬の寒さと乾燥から身を守るための皮(芽鱗)が、しっかりと冬芽をくるみはじめます。
ケヤキの葉の多くは淡い黄色になったあと、茶色に枯れていきます。
なかには赤く紅葉したり、オレンジ色になる葉もあります。
【花を観察してみましょう】
4月、葉が出る頃、薄緑色の小さな花が枝先にかたまって付きはじめます。
今年伸びた新しい小枝(着果短枝)の付け根(葉腋)に、雄花が数個集まって咲いていますね。その小枝の先の葉の付け根(葉腋)には、雌花がひとつずつ咲きはじめます。ケヤキは大木であるのに、雄花も雌花もとても小さくて、ほとんど目立ちません。
【実を観察してみましょう】
秋のはじめに5mmほどの平たい小さな実が付きます。ケヤキの果実は「痩果」と呼ばれ、くだもの型の果実のようにジューシーな実ではありません。果実の皮と果実の中にある種は、ぴったりとくっついていて、乾いています。
秋が深まると、緑色をしていたケヤキの果実は、しだいに黄色になっていき、やがて、こげ茶色に熟し、中の種もすっかり実っていきます。ちょっといびつな形です。
種を付けた「着果短枝」の葉は色づいて枯れ、秋の強い風に吹かれると、次々と枝元で切り離され、枯れた葉をプロペラにしてクルクルと風に舞いながら飛びたってゆきます。より遠くへ、より広い範囲で、子孫を残そうとしているからです。
「着果短枝」は、いっせいには落ちません。秋口から晩秋まで少しずつ風に舞い落ちつづけます。時期をずらして、種をばらまき、いろいろな場所に散らばることで、芽生えることができる環境にたどりつける確率を高くしているのです。
地面に落ちた種は翌年の春に芽を出します。
天然界では、純林はつくらないケヤキ
ケヤキは、ブナのように、天然界では同じ木ばかりからなる大きな森(純森)をつくることはありません。しかし、人の手が入ったり、自然の災害の結果、他の木がなくなったときに、小さな林(群落)をつくることはあります。
たくさんの生きものがともに生きるケヤキ
年をとったケヤキには、剥がれかけた木の皮(樹皮)が大きくめくれていることが多いです。この幹と皮のすき間は、虫などの小さな生きものたちにとって、かっこうのねぐらとなります。虫たちを、冬の寒さから守っているのですね。
カメムシの仲間、テントウムシの仲間、コバチの仲間、クモ類、ヤスデやダンゴムシなど、一匹あるいは同じ仲間どうしで集まって木の皮の下に身を寄せ合いながら、ひと冬を越します。寒さから身を守り、鳥などの外敵から食べられないようにしているのでしょうね。虫が多いということは、鳥たちも多くやってきます。大きなケヤキにはアオバズクなど鳥たちが棲むことがあります。
ケヤキと人とのかかわり
★屋敷林の木として愛されて
古くから人々のくらしを見守ってきたケヤキは、姿がよくて大木になるので、「屋敷林の木」として、家のまわりによく植えられてきました。
夏は青葉が日光をさえぎり、緑の木陰をつくり、暑い日差しをさえぎってくれます。
そして冬になると、すっかり落ちた葉は、光をさえぎることなく、庭に暖かな陽だまりをつくってくれます。
屋敷林は、風を防ぎ、燃料の薪を与え、落ち葉は、土づくりに大切な堆肥になります。
屋敷林では、ケヤキとともにコナラやクヌギ、クリ、カキなども育てられ、コナラやクヌギは薪や炭に、またクリやカキは食べものになり、大切にされてきました。
その中でひときわ大きくなるケヤキは、腐りにくく、木目が美しく、家を守るシンボルツリーとして親しまれ、親から子へ、孫へと100年以上も大切にうけつがれていき、最後には家の建て替えのときの木材(建材)として、家の梁や大黒柱に利用されてきました。
また、美しい木目のあるケヤキは、家の大切な家具となり、人々の暮らしの中で、代々、引き継がれながら使われてきました。
★木目の美しいケヤキは、広葉樹の王さま
ケヤキの材は堅くて丈夫で、年輪も美しく、さまざまなものに利用されています。幹を切って板にすると、木目がたいへん美しく、材としても貴重で、「広葉樹の王さま」とも呼ばれ、古くから調度品、美術工芸品の材として愛されてきました。
ケヤキ材のいちばんの特徴は、堅く、重く、強いことです。
★針葉樹のスギと薪割りでくらべてみましょう
針葉樹のスギは柔らかく、オノを打ち込むと、スパッとまっすぐに割れます。それに対し、広葉樹のケヤキは堅く、なかなかうまく割れません。割り口も、うねるようにデコボコになってしまいます。スギは繊維がまっすぐ通っていますが、ケヤキはまっすぐではないからです。
その特徴を生かし、床板には肌ざわりの柔らかいスギを敷き、玄関の上がり口など強度が必要なところには、堅いケヤキを使うといったぐあいに使い分けがされています。
★「杢」と呼ばれる独特な模様の木目
また、年数がたったケヤキの大木には、「杢」と呼ばれる独特の木目模様ができることがあります。そのような銘木(価値の高いすぐれた材)の板は、1枚が何十万円から何百万円という高い値段で取り引きされます。
「杢」とは、木が育つ中で、なんらかの圧力を受けて、普通と違う模様になった木目のことをいいますが、ケヤキの「杢」はたいへん美しく、材として人気があり、家具やお盆、臼、器などにも使われてきました。和太鼓の胴としても古くから利用されてきました。というのも、美しい模様に加え、材が堅く密度が高いので、太鼓の鳴りがとても良くなるからです。
★清水寺の舞台を支えるケヤキ
有名な京都にある清水寺のヒノキ舞台を支えているのも、実はケヤキです。なんと139本ものケヤキの柱で支えています。樹齢300年以上のケヤキの大木を、釘を一本も使わずに組んでいるんですよ。
このようにケヤキ材は強度がすぐれているうえ、材の美しさから高級材とされ、神社やお寺などの建築材として古くから使われてきました。
清水寺では、400年後の大改修を見越し、独自にケヤキの林をつくり、育てています。