樹木の概要
ヤブツバキ
- 樹種(じゅしゅ):ヤブツバキ
- 学名(がくめい):Camellia japonica
- 漢字(かんじ):藪椿
- 分類(ぶんるい):ツバキ科ツバキ属
- 別名(べつめい):ヤマツバキ
- 分布(ぶんぷ):本州、四国、九州、台湾、朝鮮半島
- 形態(けいたい):常緑広葉高木
- 樹形(じゅけい):卵形
- 樹高(じゅこう):5~15m
- 雌雄(しゆう):雌雄同株(両性花)
- 花(はな):12~4月/5~7cm(直径)
- 実(み):10月/2~2.5cm(直径)
- 特徴(とくちょう):成長は遅く、寿命は長い。葉は互生し、先端は尖り、縁には細かいギザギザ(鋸歯)が並ぶ
ヤブツバキの話
早春、艶のある濃い緑の葉の間に、深紅の花を咲かせる常緑高木のヤブツバキは、シイ類やカシ類が分布する日本の照葉樹を代表する、花が咲く木です。
天然のヤブツバキは、本州以西から沖縄まで、低い山に生えており、特に海近くの丘陵地や藪に自生することが多いです。
自生以外にも、室町時代にヤブツバキと中国のツバキを交配して作り出された「有楽ツバキ」など珍しい品種も多く、江戸時代に多く品種改良されてきました。八重や白花など多くの園芸品種があります。
ヤブツバキを観察しよう!
ツバキの名の由来
ツバキの語源には、いくつか説があります。葉に艶があるので、光沢を表す古語「つば」を語源とし、「つばの木(津葉木)」と転訛したとする説と、葉が厚いので「厚葉木」の最初の「ア」の読みが略されたとする説などがあって、いずれも葉の特徴から名付けられています。
艶やかな葉のヤブツバキ
ヤブツバキは常緑樹で、艶やかな葉に特徴があります。葉の長さ4~8cmの楕円形で、先は尾のように伸びています。葉は厚みがあり、硬く、縁には細かいギザギザ(鋸歯)があります。葉の表は、濃い緑色で強い光沢があり、裏は白みがかった緑色をしています。
主脈は、葉の表面で隆起しています。
スギやヒノキ、カシの仲間のように、一年中、緑の葉を茂らせている木を常緑樹といいます。常緑樹の林は(明るく乾いたマツ林は別として)、いつもうす暗く、少ない光でも生きていける植物が生えます。
ヤブツバキ、アオキやヒサカキなどです。
ツバキとサザンカ
ヤブツバキはツバキ科の常緑広葉高木で、サザンカもツバキ科の仲間です。ヤブツバキとサザンカは似ていますが、野生のヤブツバキの花は赤、サザンカの花は白です。一般的に葉はサザンカの方が小さいですが、ヤブツバキの葉っぱが小さくなると、限りなくサザンカに近くなり見分けがつきにくくなります。
基本的に異なるのは、サザンカの一年枝には毛があり、ツバキは無毛であることで、ここではっきり見分けがつきます。
ヤブツバキの幹と樹皮
樹皮は灰白色で、なめらか、若い枝は褐色を帯び、無毛です。
ヤブツバキの花
冬、うす暗いところで浮かび上がるように咲く。あでやかな赤い花が日本的で美しく、花だけでなく葉も美しいので、庭木や公園樹、防風林などとして植樹されています。霧島地域のヤブツバキはよその花よりも少し小ぶりのようです。
ヤブツバキは、12月~4月に枝先に直径5cmほどの赤い花を咲かせます。暖かい地方では、12月頃に咲き始めます。反対に北国では5月頃に花が咲きます。
花にはたくさんの雄しべがあり、黄色の花粉がひときわ目立つ花で、雄しべの付け根は、筒のようにくっついています。
花の蜜を吸いにくるのは、ヒヨドリやメジロたち。赤い実が鳥に好まれるように赤い花で鳥たちを誘い、花粉を運ばせます。
このように鳥に花粉を運んでもらう花を「鳥媒花」といいます。
ヤブツバキの花は、大きく開きません。花は咲き終わると、丸ごと付け根から散り、花の形のまま全体が落ちます。そこもサザンカとの違いになります。
受粉の後、ほぼ球形の緑色の果実が育ちます。
ツバキの実と種
秋、緑がかった褐色に熟した実は三つに割れ、中心の軸に付いていたチョコレート色の種が3~5個ほど顔をのぞかせます。
種は油分を多く含み、地面に落ちると、森のアカネズミなどが喜んで運んで貯え、食べ残された一部から芽が出ます。
ヤブツバキと人とのかかわり
高級な化粧用油「椿油」
ツバキの種から摂れる「椿油」は、たいへん上質で、古くから食用、明かり用、整髪用、機械用など、さまざまな用途で使われてきました。特に食用の揚げ油としては最高といわれてきました。ツバキの実を熱を加えずに押しつぶして搾った油は、オレイン酸を多く含むため酸化されにくく、固まりにくい性質をもっています。
平安時代には、中国地方や九州地方では税として納められてきたという記録もあるほど、貴重なものでした。
現在でも、高級の食用油として天婦羅、炒め物、サラダ用として使用されます。また、昔から髪をつやつやにする油として、人々の暮らしの中にあり、今でも化粧品やシャンプーの材料、髪油、スキンケア、保湿クリームなどに使用されています。
ツゲの櫛や碁盤、将棋の駒などの木製品を磨くことにも使われます。このほか日本刀を錆びないように手入れをするときにも必需品でした。
摂れる量が少ない貴重な油なので、高級な油として高い価格で売買されてきました。
家具や工芸品に利用されるツバキ
ツバキの材は堅く、紅褐色です。建築材や器具材、彫刻材などに利用されます。
種は、笛など身近な遊びに利用されてきました。